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【思想編】Orion StudioからSSL 18へ。私が「万能な自由」を手放し、音楽的な正解を求めた理由

「何でもできる」は、時に「迷い」と同じ意味になる。

かつての私のスタジオの核、Antelope Audio Orion Studio Synergy Coreは、まさに万能を形にしたような存在でした。広大なルーティングマトリクスを駆使し、DAWのどのチャンネルにも自在にハードウェアを介在させられる自由。しかし、その完璧すぎる環境は、制作のたびに「今日はどう繋ごうか」という選択のコストを生み、私のクリエイティブな熱量を少しずつ削いでいました。

2025年、私が下した決断は、その「万能な自由」をあえて手放すこと。 新しく迎え入れたのは、Solid State Logic (SSL) 18 です。(導入してから時間経ってしまいましたが。。)

一見するとスペックダウンにも取られかねないこの乗り換え。しかし、自由をあえて「規律」へと変えたことで、abcbStudioはかつてないほど音楽的なアウトプットを加速させています。


目次

「点」のインサートから「線」のワークフローへ

Orionを使っていた頃の私は、その膨大な入出力を活かし、DAWの各チャンネルにプラグイン感覚でアウトボードをインサートしていました。それは確かに便利でしたが、同時に「後からいくらでもやり直せる」という迷いを生んでいたのも事実です。

SSL 18に移行してからは、「この機材はこの順で通る」という最短ルートを固定しました。

  • Orion時代: 自由すぎる実験室。ルーティングを組むたびに脳のリソースを消費。
  • SSL 18時代: 迷いのないコックピット。座ってすぐに「いつもの最高のアナログチェーン」が鳴る。

DAWの特定のチャンネルにハードを刺す「点」の作業を捨て、システム全体を一本の「線」として固定する。この思考のシフトが、ミックスの決断を劇的に早くしてくれました。

16chアナログ・サミングの再定義

今回のシステム刷新の肝は、SSL 18をハブとしたハイブリッド・ルーティングです。

SSL 18 (ADAT)Ferrofish Pulse16 MXHell Audio (サミング)SSL Fusion ↔ THE BUS+BetterMaker DARTHLIMITERSSL 18 (Rec)

16chのADATを活用し、あえて外部コンバーターのFerrofish経由でアナログの世界へ音を流し込む。 Orion 1台で完結していた頃に比べれば、配線も設定も一見不自由です。しかし、この「一本道」を確立したことで、デジタルでは到達できない音の前後感と、楽器同士が溶け合う「接着感(Glue)」を、いつでも再現可能な状態で手に入れることができました。

ベース録りの救世主、Legacy 4Kボタン

SSLインターフェースの代名詞とも言える「4K」ボタン。SSL 2+やSSL 12でも愛用してきましたが、SSL 18で改めてその真価を再発見しました。それはギター以上に、ベースレコーディングにおいてです。

  • 輪郭と密度: EQで持ち上げるのとは違う、指先のタッチが際立つ自然な抜け。
  • 電源の余裕: 外部電源駆動のSSL 18だからか、SSL 12の頃よりも低域のエネルギーが大きく入力された際の「粘り」に余裕があるように感じます。

録り段階でベースの骨格を4Kで固定してしまう。この「確信」が、後段のサミングやFusionでの仕上がりをより予測しやすいものにしてくれます。

スペックを超えた「音楽的な正解」

正直に言えば、純粋な音の「精度」や解像度という物差しで見れば、以前のハイエンド環境より少しだけ目盛りが下がっているのかもしれません。

しかし、スピーカーから流れてくる「音楽としての良さ」や、録音ボタンを押す時の高揚感は、間違いなく今の方が上です。

各チャンネルの処理はプラグイン(UAD等)に絞って100%のトータルリコールを確保し、マスターの「音楽的な格」を上げる部分だけを信頼できるSSLの実機たちに委ねる。このハイブリッドなミニマリズムこそが、今の私が求めていた答えでした。


結びに代えて

機材は「音を良くする」ためだけにあるのではない。「迷わず録音ボタンを押せる自分」を作るためにあるのだと、今回の刷新で痛感しました。

もちろん、SSL 18を中心としたこの「操作系」の進化については、まだ語り尽くせていません。UF1, UC1, UF8といったフィジカルな統合については、また次回の記事で。

まずは、この新しい「音の背骨」が生み出す音楽を楽しみたいと思います。

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